About Yusuke Shibata (HULS GALLERY TOKYO)

柴田裕介。HULS GALLERY TOKYO代表。1981年生まれ。立教大学社会学科卒。日本工芸の国際展開を専門とし、クリエイティブ・ビジネス面の双方における企画・プロデュースを行っている。日本工芸ギャラリー「HULS GALLERY TOKYO」「HULS GALLERY SINGAPORE」のキュレーション全てを手がけ、東京とシンガポールを拠点に活動を行う。またオンラインメディア「KOGEI STANDARD」の編集や工芸ブランド「KORAI」のブランドプロデュースも行っている。

やきものの景色

煙が静かに立ち登り、薪窯から引き出された茶碗やぐい呑がずらりと並ぶ。その一つ一つは、釉薬が美しく溶け、見事な景色を生み出している。手に取り、じっくりと眺めれば、どこか別の土地を旅しているような、そんな気持ちになる。 陶芸の世界には「景色」という言葉があり、窯での焼成によって、胎土に釉薬が絶妙に被さり、実在する風景のような表情が生まれることがある。風景だけでなく、絵画や音楽、詩などが思い浮かぶような表情もあり、その感じ方や言葉での表現にも、鑑賞の魅力というものがある。美しい景色もあれば、薄暗い景色や深く考えさせられるような景色もある。この「景色」という言葉は、筆で描かれた絵付け作品や漆器、ガラス作品などには用いられず、釉薬表現を活かした陶磁器ならではの楽しみ方であると言える。 炎が生む景色 なぜ、やきものの表情を「景色」と呼ぶようになったのかは定かではないが、多くのやきものを見ていると、不思議とそのような言葉で表現したくなるものだ。茶の湯が生まれた時代には、当時、雑器とされていた器は、茶碗に見立て用いられた。そんな茶の湯の世界では、不完全のようにも映っていた罅や目跡を、何らかの景色と見ることで、特別に愛でたのであろう。 自然の景色は、太陽光の加減によってその表情が変化するが、やきものの景色は、炎によって生み出される。窯の中の予期しない変化は「窯変」と言い、釉薬の流れだけではなく、焦げや灰のかかり方によっても、異なる景色を見ることができる。手仕事と炎の共同作業による半自然美が、この「景色」という言葉に集約されている。 やきものの景色の楽しみ方 やきものの景色を楽しむには、置いて眺めることと、手で持って眺めることの二つの楽しみ方がある。置いて眺めるときには、光の当たり方にも注意したい。自然光でも、部屋の灯りでもよいので、作品を動かしながら、自分が最も美しいと感じる場所に置いてみてほしい。置いたときに、最も景色が印象的なのは、「胴」と呼ばれる側面の部分である。作家は、窯の中の置く位置や置き方によって、炎や灰がどのように作品に影響するかを考えながら、作品を焼く。狙い通りであることもあれば、予測しない窯変が偶然に起こることもあり、ここにやきものの神秘さがある。 手に持って鑑賞するというのも、工芸品ならではの楽しみの一つでもある。持つときには、やはり見込みと高台を眺めてみてほしい。碗の内側を意味する「見込み」は、抹茶や酒を入れると、違った景色が浮かび上がってくるときがある。特に、抹茶を入れたときに浮かび上がる景色には、「茶映り」という言葉があり、これは抹茶の色と見込みの色の調和や対比を楽しむものだ。また、高台は、やきものにとって、秘境のようなものでもある。名画の中に隠された秘密のサインのように、作り手の美意識が静かに埋め込まれていることが多い。 景色とは、見るものではなく、感じるもの 日常の中で景色を感じるのは、どんなときであろうか。一つは旅先であり、もう一つは日常の中のふとした瞬間であろう。旅に出ると、普段見ることのない景色が広がり、見るもの全てが美しく感じることがある。自然の風景だけでなく、街並みや行き交う人々の様子ですら、一つの景色のように見えることだろう。これこそが、旅の醍醐味であると言える。 [...]

2023-01-24T19:46:02+09:002023/01/24|

暮らしの所作

茶葉を眺めながら、宝瓶の蓋を静かに持ちあげ、そしてまた閉じる。閉じられた宝瓶を、利き手で包み込むように持ち、ゆっくりとお茶を注ぐ。 私は、この一連の所作が好きなのだ。所作への関心は、宝瓶というものに出逢い、気づいたことの一つでもある。東京ギャラリーのオープニングイベントの際、お越しになった方々に、櫻井焙茶研究所の店主である櫻井さんご自身に宝瓶でお茶を淹れていただき、その美しい所作に目が釘付けになった。私自身は、決して日常の姿勢や所作は美しいとは言えないほうなのだが、お茶を淹れるときだけは、櫻井さんの所作を思い出しながら、背筋を伸ばしていたい気持ちになる。 工芸品は美しい日常の道具であり、その「美しさ」には、使う際の所作も含まれている。蓋の開け閉め、お椀の持ち方、織物の畳み方、その一つ一つに、固有の美しさがある。どんなに美しい工芸品であっても、乱暴に扱ってしまっては、その美しさは台無しになってしまう。物の形はもちろんだが、陶磁器、漆器、ガラスなど、素材によっても触れ方は微妙に異なり、その違いがまた、工芸品の面白さでもある。酒器は、形や素材さまざまだが、片手で握り込むように持つのが似合うぐい呑もあれば、両手で丁寧に持ちたい盃もある。物や場面に適した持ち方があり、そうしたことに意識がいくようになると、日常に奥ゆきが生まれてくる。 所作を美しくするには、呼吸についても意識を向ける必要がある。私は「深呼吸」という言葉が好きで、頭の片隅に常に置いてある言葉の一つでもある。仕事に行き詰まったとき、考えがまとまらないとき、そして心が落ち着かないとき、椅子から離れ、一度外に出て、深呼吸をする。大きく空気を吸い込むことで、身体の隅々に酸素が行き渡る気がする。お茶を淹れるときには、茶葉が開くまでの数分間だけは、何もせず、呼吸を落ち着かせ、茶葉が開くのを眺めるようにしている。そうすることで、気持ちが少しずつ静まっていく。美しい所作の始まりには、心の静まりが不可欠でもある。 現代の暮らしの中には、デジタルの製品が溢れ、ボタンひとつで何もかもを動かすことができるようになってしまった。今では、何にも触れることなく、自動で扉は開き、電気すらついてしまう。そうした暮らしでは、人の細かな動作は少なくなり、所作を感じる機会も少なくなってしまった。日本の昔ながらの旅館では、仲居さんが、綺麗に襖を開け閉めし、挨拶をしてくれる光景があった。襖への指先のかかり方一つにも気持ちが込められ、そうした所作にこそ、日本らしい美というものがあったのだろう。人の所作というのは、物や道具との関係の中で育まれてきたものであったはずで、生活が変われば、必要な動きも変わっていく。それは仕方のないことだが、人が暮らしと共に長く積み上げてきたものは、工芸品そのものだけではない。工芸品を用いることで生まれた、人の所作でもあったのだということを、私たちはしっかりと伝えていきたいと思う。 文:柴田裕介

2022-11-17T11:41:07+09:002022/11/17|

作り手の声: 陶芸家/李荘窯 寺内信二さん <PART 2>

有田のサステナブルな取組み~泉山と天草の陶土開発プロジェクト~ HULS GALLERY TOKYOでは、2021年11月に、有田焼窯元・李荘窯四代目当主である、陶芸家の寺内信二さんの個展「泉山への回帰」を開催いたしました。本個展の関連企画として行ったトークセッションでは、古伊万里が原点となった寺内さんの作品づくりへの想い、産地での新たな陶土の開発についてお話いただきました。 *記事は前半と後半(本ページ)に分かれています。 前半はこちら - さて、ここからは泉山陶土の再生プロジェクトについてお話いただきます。寺内さんお願いいたします。 はい。私が泉山磁石場組合の開発委員長をしているなかで、今年(2021年)の7月に立ち上げたプロジェクトです。今では使われていない泉山陶石から陶土をつくって販売しようという試みです。組合には先人が築いた資産があるのですが、陶石を売っていないので管理費等で目減りしている状況です。 やはり、泉山で原料が取れて「有田」という産地が生まれたという点が重要です。原料があるからその土地に産業が生まれ、産地になるというのが基本なんですよね。ですが、有田では有田の土を使わず、熊本の天草陶土に頼っています。原料のないところで産地と言えるのかな?このままでいいのかな?というひっかかりがありました。 [...]

2022-03-13T16:34:14+09:002022/03/13|

暮らしの中で手を使うということ

人にとって、手を使うというのは、どういうことだろう。手で触れることで伝わるものは確かにあるし、手を使うことでさまざまなものを作り出すこともできる。文字を書くこと、服を縫うこと、楽器を弾くこと、料理をすること、そして陶磁器や漆器を作ること、それらはすべて手を使うことから始まっている。 タッチレスに向かう現代 ここ最近、日常で手を使うことの大切さを考えるようになった。きっかけは、新型コロナウイルスの出現により、ソーシャルディスタンスが推奨され、あらゆることが自動化やタッチレスに向かっていることだった。タッチレスでの決済や音声での入力はとても便利で、後戻りできるものでは決してないが、ふと気づくと、一日で手を細かく動かしているのは、パソコンとスマートフォンを使っているときのみという生活になってきている。このままいけば、手をほとんど使うことなく、一日を終える日も来るかもしれないとすら思う。 電子書籍と紙の本 人は手で道具を用いたことで脳が発達し、言語を獲得した。手を用いることは、それだけ人間という動物にとって、とても重要なことであったはずだが、私たちの現代の暮らしは急速に変化をしてきている。世の中は、さまざま技術で快適さや便利さを実現していく一方で、本来人に備わっていた手の感覚や能力がどこか置き去りにされているのではないだろうかと思う。例えば、電子書籍と紙の本。電子書籍は大量の本を持ち運べ、翻訳機能などもついた優れものだが、脳科学の世界では、紙の本のほうが記憶に残りやすいことがわかってきている。紙に触れながら読むことで、五感全体で記憶しているのだろう。学校の授業も、パソコンを用いた授業に変わってきているだけでなく、オンライン化も急速に進んだが、教育現場ではこうした変化による子供の学力の低下を心配する声もあるという。オンライン授業の利点は多いにあると思うが、一方で、身体や五感を用いた学習の大切さも、同時に浮き彫りになってきている。 うつわの手触り 食事の際の食器にも同じようなことが言える。自動で作られたプラスチックのお皿よりも、人の手で作られた天然素材の陶磁器や木のうつわで食事をしたほうが、印象に残りやすい。もちろん私自身がうつわが好きで、そこに意識が向かうこともあるだろうが、食事というのは、ただ味を楽しむだけのものではなく、手で触れることで、より一層その時間を味わい深くすることができる。お皿に独特の手触りや重さがあると、手が刺激され、それが記憶や感情に繋がっていくのだろう。特に日本の食文化は、お椀や鉢を手に持ちながら食べるため、食器の素材や形の良し悪しがとても大切になってくる。子供に天然素材のうつわやお箸を持たせるのは、食事に温もりを与えるだけでなく、手の感覚を養うことにも繋がっている。 私は、今年に入ってから、紙のノートに文字で日記を書くようになった。仕事では、パソコンやスマートフォンを活用してしまうが、私生活では手を使うことを意識し始めている。また、長く続いている毎日の日課の一つは、朝にドリップ珈琲を淹れることなのだが、手作業なので、同じ豆でも毎日少しずつ味が変わる。朝に淹れたてのドリップ珈琲を飲むととても気分が落ち着くが、手を使って淹れることで、ほんの少しの手や頭の運動になっているような気もする。他にも、抹茶を点てたり、絵を描いたり、楽器を弾いたりというのも良いと思う。朝起きて意識的に手を動かすということが、今の暮らしには大切なのではないだろうか。 人の手だからできること この先の未来は、自動化やタッチレスのような先端技術と、工芸品や紙の本のような手触りを追い求めたようなものとのハイブリッドな世の中になる。最近では、工芸品を購入するだけでなく、物を作るワークショップや自作キットも人気で、金継ぎや藍染体験は何ヶ月も予約が取れないほどの人気ぶりだ。日常生活で手を使わなくなった分、何かこうした機会に手を動かしたり、物を作り上げたりすることで、無意識的に人は身体のバランスを取っているようにも思う。こうして考えてみれば、手を使うということは人にとって特別なことであって、まだまだ多くの可能性も残されている。世の中がタッチレスに向かっていく時期だからこそ、人の手だからできること、人の手でしか伝えられないものを、今一度考える良い機会なのではないだろうか。 [...]

2022-03-14T09:05:21+09:002022/03/13|

作り手の声: 陶芸家/李荘窯 寺内信二さん <PART 1>

HULS GALLERY TOKYOでは、2021年11月に、有田焼窯元・李荘窯四代目当主である、陶芸家の寺内信二さんの個展「泉山への回帰」を開催いたしました。 本個展の関連企画として行ったトークセッションでは、古伊万里が原点となった寺内さんの作品づくりへの想い、産地での新たな陶土の開発についてお話いただきました。 *記事は前半(本ページ)と後半(後日公開)に分かれています。 - まずは寺内さんのご紹介からお願いいたします。 およそ60年前に有田に産まれて、大学は美大に進みました。親から窯を継ぐように言われたこともなく、あまり意識したことなかったのですが、高校3年になり進路を考える頃、継ぐのであれば、美術の勉強が必要だと思いました。 - 古伊万里の研究は、大学卒業後すぐに始めたのですか? [...]

2022-01-12T16:09:39+09:002022/01/12|

作り手の声:漆芸作家 田中瑛子さん

HULS GALLERY TOKYOでは2021年12月10日から25日まで、加賀で活動する漆芸作家、田中瑛子さんの個展「暁まで」を開催いたしました。その関連企画として、Zoomで田中さんのアトリエ訪問を配信。本インタビュー記事は、その内容をもとに作成したものです。 -愛知県のご出身とのことですが、石川県で活動されるようになったのはいつごろからですか? 大学で漆を始めて、より作品のクオリティを上げていこうと思い、卒業後に石川県へ移住しました。​​ -石川県は木地挽きが有名ですが、それを学ぶのが目的だったのでしょうか? そうですね。大学時代のもどかしさは、形を自分で作れなかったことでした。そこ(木地挽き)を自分でやれてこそ、より自分の感覚が活きてくるのではないかということで、この場所を見つけました。 -そこで、木地挽きから漆塗りまでを手がける瑛子さんのスタイルができあがったのですね。プロフィールによると、2012年に独立され、「工房あかとき」を設立。その後、東京、NY、インドネシアなどの海外でも展示・技術指導されています。 はい。日本の伝統技術はなかなか外に出ることがありません。でも、外国の職人さんは興味をすごく持っていたりする。そこに新しい道があったと言えるかもしれません。交流することで私自身も刺激を受けます。私が自由な形の漆器を作るようになったのも、それまで日本の伝統的なルールを意識する生活しかしていなかったけれど、海外に行って、海外の自由な発想に刺激をもらったからです。 -私たちも瑛子さんとシンガポールで出会いました。2018年の後半くらいでしたね。そのときをきっかけに、色々な作品を見せていただいて。シンガポールで作品を展示・販売し、その後、東京でも作品展をさせていただきました。 [...]

2022-01-12T16:06:31+09:002022/01/12|

作り手の声:陶芸家 鈴木大弓さん

HULS GALLERY TOKYOでは、陶芸家 鈴木大弓さんの作品のお取り扱いをスタートしました。鈴木さんは宮城県仙台市生まれ。大学在学中より作陶を始め、韓国にて修行を積んだ後、滋賀県信楽町にて独立。現在は三重県伊賀市に工房を移し、粉引をはじめ、刷毛目や三島、信楽の土を用いた焼締など、多彩な作品を制作されています。 今回は、そんな鈴木さんの陶芸家としてのルーツや現在の作陶活動についてお話を伺いました。 - 陶芸の道に入ったきっかけを教えてください。 大学の陶芸サークルです。特に器が好きだったわけではないんですが、大学2年生の終わりくらいに「このままだと大学生活遊んで終わっちゃう。何かやろう」と思って陶芸を始めたら、夢中になって抜けられなくなりました。 - 大学卒業後は韓国で修行を積んでいらっしゃいますが、韓国へ行こうと決心されたのはなぜですか。 [...]

2022-01-12T16:02:05+09:002022/01/12|

「オンライン・アトリエ訪問 〜漆芸作家 田中瑛子さん~」動画公開中

HULS Gallery Tokyoで開催中の個展の関連企画として、田中瑛子さんのアトリエ「Gallery and Salon 漏刻」からZoomでアーティストトークを配信いたしました。その動画を期間限定で公開いたします。 田中さんのお話に耳を傾けながら、普段はなかなか見ることのできないアトリエの雰囲気をお楽しみください。 下記のリンクよりご視聴ください。 ***ZOOMリンク*** ■動画公開期間:2021年12月25日(土)まで [...]

2021-12-17T09:21:30+09:002021/12/16|

ギャラリー営業時間延長のお知らせ

平素より、HULS GALLERY TOKYOをご利用いただきまして誠にありがとうございます。 当ギャラリーでは、2021年12月6日(月)より、営業時間を下記の通り変更させていただきます。 変更後の営業時間:10:00~18:30 みなさまのご来店、心よりお待ちしております。

2021-12-03T17:24:38+09:002021/12/03|
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