About Yusuke Shibata (HULS GALLERY TOKYO)

柴田裕介。HULS GALLERY TOKYO代表。1981年生まれ。立教大学社会学科卒。日本工芸の国際展開を専門とし、クリエイティブ・ビジネス面の双方における企画・プロデュースを行っている。日本工芸ギャラリー「HULS GALLERY TOKYO」「HULS GALLERY SINGAPORE」のキュレーション全てを手がけ、東京とシンガポールを拠点に活動を行う。またオンラインメディア「KOGEI STANDARD」の編集や工芸ブランド「KORAI」のブランドプロデュースも行っている。

ワインと工芸品の共通点

ワインについて、それほど多くの知識があるわけではないが、葡萄の種類や産地の特徴、ヴィンテージの存在など、ワインのことを深く知るにつれて、ワインと日本の工芸品には通じるところがあるのでないかと思うようになった。 ワインは、「天・地・人」によって生まれると言われることがある。この「天・地・人」という言葉は、ブルゴーニュ在住の日本人醸造家である仲田晃司氏が使用した言葉であり、ワインというものは、気候という天の恵があり、土という大地の特徴があり、そこに人の知恵や技術が加わり、生み出されるということだ。「天・地・人」その全てが上手に組み合わさることが最高のワインの条件とされる。海外では「Terroir(テロワール)」という言葉もあり、こちらは地理や気候による土地の特徴を言い表した言葉である。工芸品にも、「天・地・人」や「Terroir」という言葉と同じような性質がある。土地の風土やそこにしかない素材に、人の技が加わる。それら全てが組み合わさることが、美しい工芸品には欠かせない。 ワインは、歴史深く、世界で最も愛される国際的な飲み物の一つだ。5大シャトーのようなワインであれば、美術品と同じような値がつくこともある。ワインがこれだけ世界中の人々を魅了するのは、単純な葡萄の味だけではないだろう。たった一本のワインから、天地の恵みや時の移ろいを感じるところに、その奥深さがある。また、そうした土地や年代の特徴を知ることで、味の違いがわかるようになり、ワインを飲むたびに、どこかを旅するような気持ちにさえなることが、人々を虜にする。 工芸も同じで、私自身、磁器と陶器の違い、木材の違い、産地の文化・歴史など、産地を歩きながら少しずつ蓄えた知識・経験によって、工芸品だけでない物事全般の見方・捉え方が広がってきた。今まで、存在すら意識しなかったグラスは、今では水をも味わう道具となり、暮らしの価値を大きく変えてくれた。その変化は、私の中では、とても大きなことだ。ワインに興味を覚えたのもほぼ同時期であるが、残念ながらまだワインの産地には訪問したことがない。世界の産地を歩いてみたい。そんな夢も膨らんでいる。 日本でもワインの人気は年々高まっており、ワイングラスに取り組む工芸メーカーも増えてきた。意外な接点がありそうなワインと日本工芸。これから先の一つの工芸の道となるのかもしれない。 文:柴田裕介 [...]

2025-01-16T09:13:24+09:002020/03/12|

美術品と工芸品の違い

ギャラリーでは、工芸品を取り扱っていることをお客様に伝えると、美術品との違いを聞かれることがある。工芸品も「美術工芸品」と称されることがあり、美的価値があるという点で、大きくは美術品の一種であるが、一般的には、美術品というと鑑賞目的が強く、絵画や彫刻のことを指すことが多い。 工芸品は、暮らしの道具 一方、工芸品は実用性が重視され、「暮らしの道具」であることが基本となる。例えば、漆器の汁碗であれば、どんなに加飾が施されたものであれ、汁椀として使用することを想定して作られている。今では、芸術的価値の高くなった抹茶椀や九谷の赤絵作品などは、時に実用性を度外視した作品もあるが、それは工芸品とは言わず、美術品と呼ばれることになる。鑑賞的な美しさも併せ持つが、使うことで育っていくのが、工芸品の最大の魅力なのである。 また、工芸品は、「伝統工芸品」や「雑器/雑貨」と呼ばれることがある。私自身は、このギャラリーを始めるときに、「伝統」という言葉と「雑器/雑貨」という言葉を極力使わないようにと心に決めた。器や織物を取り扱う日用品店は時に「雑貨屋」と呼ばれるが、今の時代に、丹生込めて作られた品を、作り手を前にして「雑貨」と呼ぶことはできないし、また、伝統的であることにのみ重きが置かれ、今の暮らしに合わない品となっているものは、すでに日常使いを前提とする工芸品ではないだろうとも思う。そしてまた「アート」という言葉も多用することを避けるべきだと考えている。英語では「Art」という言葉は多義的であり、芸術作品だけでなく、精神性や生き方をも含むもので個人的には好きな言葉ではあるが、日本での「アート」という言葉は、やはり見た目の「芸術性」という意味合いが強く感じられ、工芸の趣にそぐわない。 工芸に命を吹き込んだ民藝運動 その点では、かつて柳宗悦氏が民藝運動の中で「用の美」という言葉を用いたのは、工芸の世界に置いて、何よりも重要なことであった。工芸というものに新たな命を吹き込んだと言ってもいい。さらに、現代の工芸は、人が生み出すものでありながら、自然や地域性との接点が欠かせないところに、美術品とは異なる面白さがある。自然と共生した地域でのものづくりが当たり前だった時代から、時代は大きく移り変わり、日本の地方文化の奥深さが再認識されようとしている。 個人的には、美術品であれ工芸品であれ、その美しさは使い手の捉え方次第であって、どのように解釈しても、どのように使用してもかまわないと思っているが、「工芸」という言葉の本質を深く追求していくことで、作品の見方・捉え方が多様になることは、多くの人に知ってもらいたいと思っている。私たちは、大量生産品に囲まれ、全てが整っていることこそが美しいのだと感じるようになってしまっている。自然の領域は曖昧であり、答えは人が導き出すものでないからこそ、そこにわかりきらない気づきがある。工芸品は、一人の人間による一作品ではない。全ては連なりの中から生まれているところに、捉えきれない美が潜んでいるのだ。 文:柴田裕介 [...]

2025-01-16T09:11:39+09:002020/03/07|

「KOTENRA個展 – Flower moment -」延期のお知らせ

3月13日よりHULS Gallery Tokyoにて開催を予定しておりました「KOTENRA個展 - Flower moment -」は、新型コロナウイルス拡大予防のため、6月に延期となりました。 延期後のスケジュールが決まりましたので、お知らせいたします。 この度は急なイベント延期となり、ご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。 KOTENRA 個展 [...]

2020-03-03T08:18:25+09:002020/03/03|

「高岡銅器の伝統と現代 – 喜泉堂/KISEN -」開催のお知らせ

富山県・高岡にある四津川製作所の2大ブランド「喜泉堂」と「KISEN」展示会を開催いたします。約400年の歴史を持つ伝統工芸品の高岡銅器。仏像、仏具、香炉などの製作を経て、近年では、その優れた鋳物技術が現代のライフスタイルに合った器に生かされ、新たな可能性を生み出しています。本展では、類稀な造形美が見どころの喜泉堂の香炉や伝統と現代のライフスタイルを結びつけるKISENの酒器などを多数展示販売いたします。東京で両ブランドの商品が揃う貴重な機会となりますので、どうぞ足をお運びください。 開催時期: 2020年2月8日(土)〜 2月29日(土)10:00 a.m. – 6:00 p.m.      *日・祝は休業 開催場所: [...]

2020-02-04T05:09:16+09:002020/02/04|

酒器の魅力

近年、海外では日本酒の人気が高まってきている。日本の和食文化の広がりとともに、「酒=Sake」や「ぐい呑=Guinomi」に詳しい外国人も増えてきた。酒器は茶器と並び、「用の美」を代表する工芸品の一つであり、多くの方に日常で使ってみていただきたいと思っている。 酒器には大きく分けて「盃」「お猪口」「ぐい呑」とがある。「盃」は中心が窪んだ皿状のもので、「お猪口」はお酒を飲むための小さな器のことを呼ぶ。「ぐい呑」はグイッと飲むことからぐい呑と呼ばれ、一般的には猪口よりも少し大きめの器のことを指す。日本酒を注ぐ道具としては「徳利」と「片口」とがあり、海外では徳利を用いて熱燗でお酒を飲むことが少なく、冷酒に使いやすい片口のほうが一般的だ。 酒器といえば、「備前の徳利、唐津のぐい呑」という表現がある。焼締による窯変の力強さが特徴の備前焼と、陶器として絵唐津、朝鮮唐津、皮鯨など様々な技法のある唐津は、どちらもどこまでも深い魅力を持っており、長く人々を魅了してきた。酒器は、焼締や陶器以外にも、磁器、ガラス、漆器に錫など、様々な酒器があるが、酒器はお酒との相性があり、お酒によって酒器を変えてみるのも楽しい。冷酒か熱燗か、純米か大吟醸か、辛口か甘口かなど、どの酒器を選ぶかによって、お酒の味わいが大きく変わってくる。例えば、純粋にお酒の味を楽しみたい方には、薄手の白磁のお猪口や装飾のないガラス製のシンプルな酒器をお勧めしたい。装飾を施していないものは、お酒の味に集中することができる。反対に、酒器の質感もあわせてお酒を楽しみたい方は、陶器のぐい呑や切子の作品などが良いだろう。特に、唐津や志野、織部などのぐい呑は、溶けた釉薬が絶妙な風合いを出し、呑む楽しさと眺める楽しさを同時に与えてくれる。舌触りを重視する方は、輪島塗の漆器や木製の酒器も試してみてほしい。 日本酒は料理と合わせていただくのも良い。フレンチやイタリアンなどでも良いが、やはり四季の食材を活かした和食と共にいただきたい。豪華な料理でなくても、日本には様々なおつまみがあり、それに合わせて、季節の日本酒をいただくのは、旬の贅沢と言える。酒器は、日本酒によっても、料理によっても、変化が楽しめ、その組み合わせは無限に広がる。ギャラリーには、酒器やぐい呑を集めるのがお好きで、定期的に足を運んでいただくお客様もいる。一点の酒器を愛し続けるのも良し、様々な酒器を買い揃えて使い分けるのも良し。工芸品を通じて、酒器の深い世界に足を踏み入れて見て欲しい。 文:柴田裕介

2025-01-16T09:23:11+09:002020/02/01|

「徳幸窯 ハレの器展 / 同時開催 徳永榮二郎 作品展」開催のお知らせ

HULS Gallery Tokyoでは、新年1月6日(月)から1月25日(土)まで、佐賀県有田の窯元・徳幸窯の「ハレの器展」を開催いたします。1865年創業の徳幸窯は、得意の転写技法によって、割烹料亭向けの雅で華やかな絵柄の器を製作しています。今回の企画展では、新春にふさわしく、幸せへの願いが込められた吉祥文様の器を数多く展示し、皆さまへ福をお届けします。 また、徳幸窯の次男として生まれ、京都で修行を積んだロクロ師・徳永榮二郎氏の作品展も同時に開催いたします。こだわりの炭化焼成による作品の数々をご堪能下さい。 「徳幸窯 ハレの器展 / 同時開催 徳永榮二郎 作品展」 開催時期: [...]

2020-01-14T01:18:35+09:002019/12/25|

年末年始の営業のお知らせ

日頃より HULS Gallery Tokyo をお引き立ていただきありがとうございます。誠に勝手ながら、下記の期間を年末年始休業とさせていただきます。 年末年始休業期間 :12月29日(日)~ 1月5日(日) つきましては年内は12月28日(土)まで、新年は1月6日(月)からの営業となります。ご不便をおかけいたしますが、何卒ご了承いただきますようお願い申し上げます。

2019-12-25T03:40:56+09:002019/12/25|

木地の山中

「木地挽き」と言えば、石川県の山中温泉が思い浮かぶ。ろくろを用いながら、木を削り出して形を作っていく「木地挽き」は、円形のお椀(椀物)に最適な技法だ。キーンと大きな音を立てて削り出していく姿は、迫力があり一見の価値がある。石川県の漆器は、「木地の山中、塗りの輪島、蒔絵の金沢」と表現されることが多く、山中で生まれた木地は、山中漆器のためだけでなく、輪島や京都など、日本各地の漆器の産地にも供給されている。 山中の木地の最大の特徴は、「縦木取り」と呼ばれる木の取り方にある。木取り(きどり)には、縦木取りと横木取りとがあり、縦木取りは輪切りにしたのちに垂直方向に木を切り抜く方法で、横木取りは木を横にした状態で切り抜くという違いがある。横木取りは最大限に木を活用できることが特徴である反面、強度に欠点がある。一方、縦木取りは、木が育つ方向に逆らわずに木取りするため、変形が少なく、それが薄挽きを可能とする。また、山中の木地挽きは、細かな削り出しを行うことで模様を生み出し、加飾を施すこともできる。「加飾挽き」と呼ばれる山中の技法は日本一と称され、その技の数は数十を超えるとも言われる。その一つに「千筋」と呼ばれる木に細かな筋を入れていく技法があるが、測りを用いず、目視のみで、精密な筋を入れていく技には、驚きを隠せない。 こうして出来上がる木の器だが、用の美としての楽しみは、やはり実際の木目を楽しむことであろう。ギャラリーでは、木製の作品をご購入いただくと、在庫が複数ある場合、在庫品の中から、お好きな木目のものを選んでいただく。これはお客様に木目の多様さを感じていただく大切な時間だ。いくつかの木目の違いを見ていただくことで、自然の豊かさを感じることができるし、その中から選び抜いた品には、特別な愛着を持っていただくことができる。 日本の食文化では、味噌汁や吸い物などの汁物が欠かせず、汁椀の存在はとても大きなものだ。また、日本の汁物は、手にとって食す料理であることから、手に馴染む形状のお椀は欠かせない。陶器の手触りも心地良いが、汁物をいただくときの木椀の温もりは、心まで染み渡り心地よい。木目を眺め、手にお椀を取り、温かな汁をいただく。木地師から生まれた木椀ならではの楽しみ方がそこにはある。 文:柴田裕介 写真:須田卓馬 [...]

2025-01-16T09:23:28+09:002019/12/16|

「田中瑛子 漆工芸展 〜木・漆・色彩〜」開催のお知らせ

HULS Gallery Tokyoは、石川県加賀市で木地師として活動する田中瑛子さんの作品展を開催いたします。東京では約二年ぶりに開催され、普段使いやおもてなし用の器、新作のオブジェなどが展示されます。今回の作品展は、漆の深い艶と表情豊かな杢目が現れる唯一無二の作品をご覧いただける機会です。固定概念に捉われない作品の数々をぜひお楽しみください。 開催期間:2019年12月2日(月)-12月26日(木) *日・祝は休業  作家在廊予定日:12月18日(水)-12月21日(土)12:00am-6:00pm ■田中瑛子 プロフィール 石川県加賀市在住の木地師。中嶋虎男氏に師事し、木地挽きから漆塗りまでを手がける。女性ならではの感性を活かし、美しい形姿の作品を生み出している。 URL:https://eikotanaka.com/ [...]

2019-12-06T07:08:53+09:002019/11/27|

工芸における侘び寂び

工芸品は、「実用的でありながら、芸術的な意匠があるもの」とされ、日本の工芸品は、日本の美意識とは切っても切れない関係にある。日本の美意識の一つである「侘び寂び」は、海外にまで知れ渡っている日本語の代表的な言葉の一つであり、工芸の世界においても、たびたび用いられてきた。 「侘び寂び」は、もともとは禅の概念の一つであったが、千利休の茶の世界に触れたことで、後世にまで長く語り継がれるようになった。「詫び」とは、貧粗・不足な中に美を見出そうとすることであり、「寂び」とは古いもの、静かなものに趣を感じることとされる。例として、日本庭園の様式の一つである「枯山水」は、侘び寂びを感じさせる作品の一つと言って良いだろう。 私にとっての「侘び寂び」といえば、真っ先に陶器の抹茶碗が思い浮かぶ。釉薬の隙間から垣間見える土の表情は、再現不可能な偶然性を帯びていて、見ていて飽きることがない。手漉きの和紙からも同じような印象を感じることがある。「侘び寂び」というのは、作為的なものでなく、どこか自然に委ねる部分があってこそのものであり、自然豊かな日本らしい美意識であるのだろう。 海外では、「侘び寂び」という言葉は、日本を表す代表的な言葉の一つとして浸透している。豪華絢爛なものこそ豊かさの象徴だとする考え方に対し、日本の「侘び寂び」は特異な存在であり、その独特さが今、世界から再度注目され始めている。経済が成長しているときには、人々は前を見て、煌びやかな世界を追い求めるが、経済が成熟すると、その意識が変化し、地に足のついた暮らしを意識するようになるのだろう。向上心や虚栄心から逃れ、落ち着いた暮らしをしたいという願望には、日本の「侘び寂び」は静かに寄り添うことができるようにも思う。 侘びているもの、寂びているもの。それらは、余白にある美を見つけるための審美眼を要する。人生の経験とともに、時間をかけて身につけていくものだからこそ、焦らずゆっくりと向き合うものなのだろう。 文:柴田裕介 写真:須田卓馬 [...]

2025-01-16T09:07:07+09:002019/10/30|
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