About Yusuke Shibata (HULS GALLERY TOKYO)

柴田裕介。HULS GALLERY TOKYO代表。1981年生まれ。立教大学社会学科卒。日本工芸の国際展開を専門とし、クリエイティブ・ビジネス面の双方における企画・プロデュースを行っている。日本工芸ギャラリー「HULS GALLERY TOKYO」「HULS GALLERY SINGAPORE」のキュレーション全てを手がけ、東京とシンガポールを拠点に活動を行う。またオンラインメディア「KOGEI STANDARD」の編集や工芸ブランド「KORAI」のブランドプロデュースも行っている。

リレーエッセイ企画のご案内

日本文化を世界へ向けて発信するオンラインメディア「Premium Japan」にて、HULS GALLERY代表の柴田が主宰するリレーエッセイ企画が始まりました。約一ヶ月に渡り、柴田が工芸を通じて出会った魅力的な方々のエッセイが順次公開されます。   Premium Salon 「柴田裕介がプロデュースする日本工芸の美意識と奥ゆき」 https://www.premium-j.jp/premiumsalon/

2020-06-09T09:22:30+09:002020/06/09|

古いが新しい

私は、工芸の産地を歩きながら、様々なことを学んでいる気がする。それは、地方の暮らしに憧れを持つということではない。都会で暮らしているからこそ、都会から離れて、産地までたどり着く道の途中で様々なことを感じ、そしてまた、たどり着いたその場所で、一つの美意識が育まれてきたというその事実に、多くのことを気づかせてもらう。誰か一人、何か一つからではなく、一人一人、一つ一つを繋ぎ合わせながら、何かを少しずつ学んでいるのだ。 中でも印象に残っているのは、滋賀にある黒田工房に訪問したときのことだ。それまでは、いくつかの工房を回る中で、「伝統」という言葉よりも、新たな作風に試みをしている作り手に共感することが多かった。黒田工房の代表である臼井さんも、イタリアのミラノデザインウイークで革新的な作品を発表するなど、新たな取り組みに前向きな印象を受けており、当然のことながら、その革新さについてのお話を聞かせてもらえたらと思った。だが、臼井さんは、一方で文化財の襖・屏風などを修復する伝統工芸に携わる生粋の職人でもある。言葉を慎重に選びながら、「伝統」というものを引き継ぐことの重さや難しさを語ってくれ、伝統工芸に関する私のそれまでの考えの浅はかさに気づかされた。 文化的な建造物の修復というのは、ただ壊れたところを直すだけの単純な作業ではない。時代によって、気候や環境は変化しており、その中で、最適な修繕方法を考えていく必要がある。中には、当時と同じ材料が手に入らないこともあるであろうし、技法的に同じような復元が困難なものもあるであろう。一つの選択の過ちによって、文化財全てが倒壊する可能性もあり、その肩に乗る重圧は計り知れない。それからは、伝統を受け継ぐということは、点と点を繋げることではなく、線を繋げていくことなのだと思うようになった。 先を行くものだけが「新しい」とは限らない。今の世の中では、インターネットを通じて、世界中の人々と会話ができることは当たり前だが、釘を用いずに組まれていく伝統的な組子の技術には多くの人が驚きを覚えるだろう。私たちは、日々新しいものを追いかけ、暮らしが少しでも便利で快適になるように、様々な商品やサービスを生み出し続けている。そうしたものを追い求める一方で、いつからか古いもの・伝統あるものが新鮮に映るようになってきたのではないか。器の世界では今でも古伊万里や古九谷の美を追求している作家は多くいる。小倉織を復元した築城則子さんは、能や歌舞伎の衣装に魅せられ、織物の世界に入ったのち、自身の故郷にあった小倉織の切れ端に出会い、一度は途絶えてしまった織物を復元することに成功した。今の時代に、そうした感性から物事を復元できる人はとても貴重だと思う。「古いが新しい」。そんな感性はきっとあり、今の時代の「新しさ」なのではないかと思っている。 文:柴田裕介 写真:須田卓馬 [...]

2025-01-16T09:24:10+09:002020/06/02|

HULS GALLERY TOKYO営業再開についてのご案内

日頃よりHULS GALLERY TOKYOをお引き立ていただき誠にありがとうございます。このたびHULS GALLERY TOKYOでは、緊急事態宣言の解除を受け、適切なウィルス感染予防対策を行いながら、下記の通り営業を再開することといたしました。 営業再開:2020年5月29日金曜日より 営業時間:月曜日から土曜日の10時から18時 ※日・祝は休み ・店内では、お客様にもマスク着用をお願いいたします。マスクをお持ちでない場合は、弊社の方に予備がございますので、そちらをご利用いただけます。 ・スタッフにつきましても、マスク着用にて対応させていただきます。 [...]

2020-05-27T03:32:49+09:002020/05/25|

「KOTENRA個展 – Flower moment -」再延期のお知らせ

6月にHULS Gallery Tokyoにて開催を予定しておりました「KOTENRA個展 – Flower moment -」は、来年2021年3月に再延期となりました。 当初の2020年3月開催予定から6月に日程を変更し、開催を目指しておりましたが、新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言を受け、再延期を決定いたしました。 詳しい日程は決まり次第、当ギャラリーのウェブサイトでお知らせいたします。 インスタレーション形式の展示を企画しておりましたので、お客様に安心してご来場いただける時を待ちたいと思います。度重なる延期となり申し訳ございませんが、何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします。

2020-05-08T00:26:48+09:002020/05/08|

臨時休業期間延長のお知らせ

日頃よりHULS Gallery Tokyoをご愛顧いただき、誠にありがとうございます。新型コロナウイルス感染拡大防止、および政府からの緊急事態宣言を受け、お客様と従業員の安全と社会的責任を考え、5月6日までとしていた休業期間を再度延長させていただきます。 再開時期については、ウェブサイトやSNSにてお知らせいたします。お客様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解いただけますようお願い申し上げます。なお臨時休業期間中は、電話対応を一時休止させていただいております。 臨時休業期間:2020年4月8日より(再開時期:未定) ギャラリー期間中は、特設オンライン注文フォームより、厳選した商品のご注文を受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。 ・特設オンライン注文フォーム https://hulsgallerytokyo.com/orderonline/

2020-05-06T02:42:35+09:002020/05/06|

茶器のすすめ

工芸品を語る上で欠かせないものといえば、酒器と並ぶものに茶器がある。陶磁器の急須・茶碗に始まり、銅製の茶筒、竹製の菓子皿に漆の棗など、様々な素材の工芸品がお茶に関わる道具として、私たちの日常の中で用いられている。私自身も一つ一つの工芸品を学ぶにつれ、お茶への興味が自然と深まってきた。 お茶は中国で生まれたものであるが、日本茶の歴史も長い。800年代には、遣唐師が中国よりお茶の種を日本に持ち帰ったとされ、その後、千利休が「茶道」を完成させ、庶民の間でもお茶が普及し始めたと言われているが、そこから現代までも400年以上の歴史がある。日本の美意識の一つとして語られることの多い茶道だが、様々な工芸品がその道を共に歩むことで、互いに影響し合い発展してきたと言っても良い。 私自身が茶器に興味を持つことになったきっかけは、佐賀県有田の李荘窯による宝瓶との出会いにある。宝瓶とは、取手がない茶器のことであるが、一般的には見慣れないこの茶器の美しさに引き込まれてしまった。宝瓶は、片手で持つものであり、玉露や煎茶など、低温でお茶を淹れるのに最適なものだ。傾けやすく、お茶の旨味が凝縮されている最後の一滴まで注ぐことのできるところにも特徴がある。宝瓶は、自らで使ってみるとわかるが、淹れるときの所作や動作を綺麗にしたい気持ちにさせる。最後の一滴を淹れるまでの間、背筋が伸び、呼吸を落ち着かせてくれ、心までもゆったりとした気持ちになる。 ギャラリーでは、急須の一大産地である常滑焼の茶器も取り扱っている。急須には、取手の位置が異なる「横手」「上手」「後手」という三つの種類があるが、横手型の急須というのは日本特有の茶器であることはあまり知られていない。中国茶は後手型が一般的とされる。常滑の茶器としては、急須を専門とした作り手である伊藤成二さんの作品を扱っているが、伊藤さんの朱泥の作品は色、形が共に美しく、見ているだけで惚れ惚れしてしまう。常滑で淹れていただいた伊藤さんのお茶は、伊藤さんの性格を映し出しているようで、柔らかく優しい味がした。こんなところも、お茶の魅力なのではないかと思う。 工芸の世界と同じく、お茶の世界もまた深い。緑茶の王様と呼ばれる玉露に始まり、抹茶、煎茶、焙じ茶など、丁寧に淹れて飲むと、それぞれが別の飲み物と言ってよいほどに個性を味わえる。また、お茶は、朝・昼・夜によっても、季節によっても、味わい方は異なり、茶器を含めたその組み合わせは、際限がない。私自身、お茶の世界にまだ足を踏み入れたばかりだが、長い時間をかけて、ゆっくりと学んでいきたいと思っている。 文:柴田裕介 [...]

2025-01-16T09:18:08+09:002020/04/27|

ニュースレター購読のオンライン受付開始

HULS GALLERY TOKYOの公式サイトにて、ニュースレターの登録ができるようになりました。 ニュースレターでは、最新の情報をお届けしています。 新作の入荷情報、展示会情報などをメールでお受け取りになりたい方はぜひご登録ください。 https://hulsgallerytokyo.com/newsletter/

2020-04-17T00:15:35+09:002020/04/16|

新型コロナウイルス感染拡大に伴う休業のお知らせ

日頃よりHULS Gallery Tokyoをご愛顧いただき、誠にありがとうございます。 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、お客様および従業員の安全確保のため、 以下の通り休業期間を設けさせていただきます。 休業期間:2020年4月8日(水)~4月18日(土) 変更などが生じた場合は、ギャラリーホームページやSNSにてお知らせいたします。 お客様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解いただけますようお願い申し上げます。

2020-04-06T06:01:59+09:002020/04/06|

工芸とサステナブル

ここ数年、頻繁に世の中で使われるようになった言葉の一つに「サステナブル」がある。「持続可能な」という意味を持つこの言葉は、地球環境や社会問題に向き合うことの大切さを教えてくれ、日々の暮らしの中でも、耳にすることが増えてきた。しかし、あまりに多用されてしまっているがために、「サステナブル=環境に良いこと」という意味で安易に人々に伝わってしまっているような気配があり、自分なりに「工芸におけるサステナブルとは何か」を考えるようになった。 私にとってサステナブルとは、時の移ろいについて想いを巡らせることから始まる。今すぐに、地球環境や社会問題に対して深く考え何かを実践することは難しいが、まずは、昔の暮らしはどうだったか、そこから今ではどのように変化したか、これから先はどうなるのかと、時の移ろいに想像力を働かせることを大切にしたい。子供の将来を思えば、自分の怠惰な暮らしは是正したいと思うだろうし、親の時代を思えば、今の時代がどんなに恵まれているかを知ることができる。時代の変化の中で、生きるために本当に必要なものはごくわずかであるが、人として生きている限り暮らしの進歩を追い求めたくなる欲もある。そんな相反するものを上手に調和させながら、社会全体のことを考え行動することが、サステナブルの第一歩であろう。 工芸品は、時間をかけて作り上げ、時間をかけて使い込んでいくものだ。私自身は、唐津のぐい呑や、開化堂の茶筒、上質な柿渋染の革財布などは、静かに経年変化を楽しんでいる。使い込むうちに、愛着は増し、やがては自分と一心同体のものにすらなる。そんなところにこそ、工芸の世界のサステナブルが見え隠れする。工芸品の経年変化を通じて、時の変化を意識し、そこに一つの美意識を生み出す。長く文化が繋がれてきた島国の日本ならではの考え方でもある。今の時代が良いものであれ悪いものであれ、変化していくことを意識することができれば、その道は明るい。まずは、今このときだけのことを考えるのをやめ、昔や未来の暮らしを想像してみる。それは、工芸を通じて広がる世界の一つであろう。 天然素材を主とする工芸品であるが、そうであるからサステナブルだというのは、一つの側面でしかない。工芸品は、素材としては天然のものであっても、簡単にリサイクルをしたり、すぐに土に返るものでもない。物を作ることは、人の生きる証でもあり、簡単に手放すことのできるものではないが、だからこそ、その一つ一つを手に取り、愛着を持つことがまずは大切な一歩になる。また、時代の波に流されることのない息の長い魅力が詰まっていることも、工芸の価値の一つであろう。石器時代の暮らしに戻ることはできないが、祖母が大切に使っていた帯を次の時代に繋げることならできる。そういうことが、私にとってのサステナブルなのだ。 文:柴田裕介

2025-01-16T09:22:21+09:002020/03/27|

不揃いの中の美

現代の工芸品の魅力の一つは「不揃いであること」と言って過言ではない。陶磁器であればろくろや窯変、木工品であれば木目、色糸であれば草木染めなどによって、世に二つとないものが生み出される。世の中は、大きく進歩し、画一的なものに囲まれた暮らしが当たり前になった。そんな中で、一点一点異なる工芸品というのは、特別な意味を持つようになってきた。 不揃いではあるが、不出来ではない。それが工芸のあるべき姿であろう。工芸の世界では、右が左に比べて優れているか劣っているかという価値基準があるわけではなく、あくまで個々一つ一つが美しいかどうかが求められる。もちろん、ガラスのコップであれば、気泡が多くあれば不具合品とみなすこともあるが、それ以上に触れ心地や飲み心地が良いかどうかが作品としての価値を大きく左右する。 私はデザインの経験があり、白紙の上の線が縦に真っ直ぐであるかどうかや、文字が真ん中にあるかどうかをすぐに気づくことができる。頭の中に「違和感のスイッチ」があるといっても良いかもしれない。ただ、工芸品を見て、二つの違いが気になるかというとそういうことはない。おそらく、一般の人々のほうが、そうした違和感に敏感だろうと思う。人も同じだが、隣と比べて良いか悪いか、どれほど揃っているかどうかという議論はさほど心地の良いものではない。不揃いであっても、そこに個別の美しさがあるかを見極められるかどうかが審美眼ではないかと思う。 ただ、工芸の世界において、手仕事だから、この程度で良いだろうという妥協も好ましくはない。大量生産品が主流を占める時代に、不揃いなものに価値を見出してもらうには、大量生産品には、負けない魅力を込める必要がある。不揃いであっても、個々の美を自信を持って語れるかどうか。そこに工芸としてのこだわりが必要なのだ。 現代の暮らしにおいて、無垢材の家具は贅沢なものになり、オートクチュールのドレスは希少になった。工芸品も同じく、その差異は小さくとも、世に二つとない個性を潜めている。それはつまり、作品一つ一つに向き合うことであり、その一つが壊れたら悲しいと思うことであろう。そんな気持ちが、物を大切に使うことの第一歩なのだ。 文:柴田裕介 [...]

2025-01-16T09:15:44+09:002020/03/16|
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