HULS GALLERY TOKYOでは「桶栄」川又栄風さんの作品展を開催しています。「白木を繋ぐ」という展示タイトルには、桶栄さんが江戸結桶の伝統をつないでいるという意味と、板を繋いで桶をつくるという意味が込められています。
今回の展示企画に合わせて、川又さんにお話をうかがいました。
– 川又さんは1887年から続く桶栄の4代目でいらっしゃいます。江戸結桶の伝統に忠実に向き合いながらも、現代的な意匠でご自身の表現を追求されています。川又さんが職人の道に入られてから何年になりますか。
40年くらいになります。
– 作り方の指南書はないそうですね。全て感覚で覚えていらっしゃるということですか。
そうですね。先代からの口伝です。職人ひとりひとり力も体格も違うのに、言われた通りではそれなりのものしかできない。それに気づき、自分なりのやり方に修正してから良いものが作れるようになっていったと思います。
– 作品づくりをするなかで、先代から代々受け継がれた桶栄らしさを感じる部分を教えてください。
伝統技法を愚直に継承していること。そして材料も変わっていないことでしょうか。
– 川又さんの取り組みが現在の桶栄のイメージをつくりあげているように感じます。桶栄さんの作品には万国共通の美しさがありますね。洋白銀のタガをいち早く取り入れ、独自の意匠を生み出していらっしゃいます。またデザイナーやアーティストとの協業にも取り組まれていますね。
もともと色々なことに興味がありました。例えば、モダンアート、建築、器。そういった他のものから得たヒントが、自分のものづくりに繋がることもあります。
洋白銀のタガは25年か30年前に開発しました。銅や竹のタガが一般的ですが、より良い素材を探しました。私独自の意匠が増えるにつれ、それを目にしたデザイナーやアーティストの方が声をかけてくださるようになりました。
– 江戸結桶の主な特徴を教えてください。また、他の地域でつくられる桶との違いはどこにありますか。
一般的な江戸結桶の特徴は、十分な強度がある、使いやすさ、形の良さでしょうか。東京は人が集まる土地で仕事も多かった。作り手が切磋琢磨してきた環境ゆえに、技術も高まり洗練されていると言えます。
– 川又さんの作品は、樹齢300年以上の木曽産のさわらを材料として、数多くの工程を経て作られています。素材選びから作品になるまでは、どのくらいの月日がかかるのでしょうか。
最短で18ヶ月はかかります。場合によっては4〜5年かかるものも。材料となる木材を1年は丸太で保管して、割ってから4ヶ月から半年間は外で雨ざらしにします。天日干しとも言いますが、乾燥だけではなく木を安定させるためです。その間は、土場(木の保管場所)に何度も足を運んで状態を確認しています。
– 今回の展示には、新作の酒器を出品していただいています。江戸結桶の製法による、片口・ぐいのみ・オールドグラスです。意匠や製法に工夫をされた点がありましたら教えてください。
まず、素材にはひのきを選びました。ひのきのすべっとした感じと香りが、お酒を飲むのに良いと思いました。唇への感触も良く仕上げています。ぐいのみは、タガの位置を使いやすいように考えました。片口の注ぎ口は水切れが良くなるように削っています。
お客様からしばしば酒器のご要望があったのですが、なかなか新作づくりに当てる時間がなかったのです。コロナ禍で落ち着いて取り組めたことは良かったですね。
– HULS GALLERYの展示情報は、海外のお客様もご覧になっています。ご飯を入れるイメージのあるお櫃ですが、異なる食文化の地域での使い方の提案はありますか。例えば、海外ではどのように使われていますか。
ご飯の他にもパンやお菓子を入れて、使っていただいております。蓋の形の面白さからか、海外のお客様には被せ蓋型の江戸櫃が人気です。あと、印象的だったのが、キャビアを載せるパンケーキを入れるために、蓋つきのコンテナを購入したロシアのお客様がいました。昔ロシアにあった入れ物に似ているということで喜んでくださいました。
– HULS GALLERYのお客様におすすめの作品を教えてください。
オーバルコンテナです。最近の代表作と言えます。また、リラックスできるお風呂の道具もおすすめです。
– 展示にご来場の皆さまにメッセージをお願いいたします。
全体のバランス、削り出したまろやかな曲線、スムーズな肌触りや清々しい香りなど、他にはないものを感じてください。
<展示会情報>
開催時期:7月27日(火)〜8月11日(水)*日・祝は休業
開催場所:HULS Gallery Tokyo (東京・赤坂)
オンラインストア桶栄コレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/okeei